勇者ペレウスと、海の女神テティス、二人の結婚が全ての元凶だった。
ここはギリシャ。
「アキレス腱」で知られる英雄アキレウスの両親になる二人の婚礼には、あらゆる神々が招待された。
ただ一人招待されなかった不和の女神エリスは「黄金の林檎」を祝いの席に投げ入れた。
その林檎には「最も美しい者へ」と書いてあった。
その林檎が欲しくてたまらない三人の女神、ヘラ、アテナ、アプロディーテは互いに譲らず、とうとうトロイア(現在のトルコ)の王子、パリスに判定させることとなった。
余談だが、アキレウスのアキレス腱を弓で射抜いて殺したのも、この人。
あらゆる手段でパリスを買収しようとする女神たち。
そして、パリスに「最も美しい女を与える」と約束した女神アプロディーテが、黄金の林檎を手に入れた。
彼女はパリスに、スパルタの王メネラオスの妻、ヘレネを与えると約束した。
ちなみにヘレネは、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町を加えて、世界三大美女と呼ばれている。
パリスは女神の導きを得てヘレネを誘惑し、トロイアへ連れ帰った。
妻を盗まれたメネラオスは、兄でミュケナイの王、アガメムノンに泣きついた。
こうして、ギリシャとトロイアの間で十年続く戦争、トロイア戦争が始まろうとしていた。
アガメムノンは、娘イピゲネイアをアウリスに呼び寄せた。ちなみにアニメ「サザエさん」の、カツオの親友・中島の声は、イピゲネイアの人があてている。
ギリシャ軍の千艘の大船団は、トロイアへ出征すべく、アウリスの港に集結していた。
しかし、彼らはここで足止めを食らっていた。急に風が止んだためだ。
預言者カルカスは「イピゲネイアを女神アルテミスに差し出さねば、風は吹かない」と言った。
アガメムノンは苦悩の末、娘を生贄に捧げた。
風は吹き、ギリシャの大船団はトロイアへと向かって行った。
娘を殺されたアガメムノンの妻クリュタイムメストラは、夫を恨み続けた。実は、クリュタイムメストラはヘレネの姉であり、つまり姉と妹は、メネラオスの家の兄と弟と結婚しているのである。
トロイア戦争の開戦から十年が経過した。
ギリシャ軍は英雄アキレウスを失ったが、トロイア最強の戦士ヘクトルを倒した。パリスも死んだ。
そしてトロイアの木馬により、とうとうトロイアは陥落した。
逃げた女房、ヘレネはトロイアで悠々と暮らしていた。
夫メネラオスは彼女を殺すことが出来ず、船でギリシャに連れ帰ることにした。
トロイアの女たちは、みなギリシャ人の奴隷として船に乗せられた。
トロイア最強の戦士ヘクトルの妻で、トロイアの女王の娘、アンドロマケも、英雄アキレウスの息子ネオプトレモスの奴隷となった。
トロイア戦争に勝利したギリシャ軍は、帰りの航路で嵐に巻き込まれた。
メネラオスとヘレネを乗せた船は行方不明となった。
メネラオスの兄アガメムノンは無事にミュケナイに帰還するが、生贄にされた娘の恨みで、妻クリュタイムメストラに殺される。
復讐を恐れたクリュタイムメストラは、息子オレステスも殺そうとするが、娘エレクトラに邪魔され、オレステスを逃がしてしまう。
母を憎む娘、娘を虐げる母。そして七年の月日が流れた。
姉のエレクトラは父の仇討ちを誓い、成長した弟オレステスの帰りを待っている。
オレステスのもう一人の姉クリュソテミスは、母に付き従って生きている。
ある日、エレクトラの元に、オレステスの遺灰を持った男が現れる。
復讐の不安から開放された母クリュタイムメストラは喜び、希望を失った娘エレクトラとクリュソテミスは嘆き悲しんだ。
しかし、彼は生きていた。遺灰を持った男こそ、成長したオレステスだったのだ。
身分を偽ったのは、母を油断させるためだった。
彼は従兄弟のピュラデスと共に、光の神アポロンの神託を受けて、ここへ来た。
オレステスは、姉エレクトラの手引きで、母クリュタイムメストラを殺害した。
父の仇討ちを果たし、歓喜するオレステスとエレクトラ。
しかし母殺しの罪を負ったオレステスは、その身に呪いを受けた。
彼は復讐の女神エリニュスに絶えず付きまとわれ、次第に正気を失って行く。
新たに、ヘレネの父で夫メネラオスの義父、テュンダレオスが、そして、
メネラオスとヘレネの娘ヘルミオネが登場する。
メネラオスとヘレネの安否は? また、呪われたオレステスの運命は?
――物語は続く。